幼児期における系統的な音感教育を考える
園田清秀氏(1903-1935)大分県出身(ピアニスト:園田高弘氏の父)のピアノ教育法についての論文を読み、非常に興味深く、あの大ピアニスト園田高弘の幼児期の音楽教育を施したメソードとして、これから注目を集めることもあるかも知れないと思った。
氏がフランスへ留学した当時は、未だフォルマシオン制度が始まる以前のソルフェージュ教育だったが、当時の日本人が涙ぐましい努力で学ぶ曲をヨーロッパの子供たちが苦も無く、しかもずっと上手に弾くことを目の当たりにし、それがソルフェージュ教育に起因すると 帰国後日本の子供たちに合わせた「ソルフェージュ教育」=音感教育とピアノメソードを編み出していった。
それも、用意されていた芸大助教授の地位を辞退して、一般の子供たちの指導と研究に専念したことに、とても感銘を受けた。
無理に詰め込むようにしないこと、理解してそうするようにさせる。褒める事、面白いお話を使って子どもを楽しませること等「子ども」に合わせながらも、〈良く出来るまで反復練習させる〉とその指導法は単なる子ども本意ではない。
1. 子どもの年齢・発達・集中に留意し、子どもの個性に合わせた指導。
2. 復習重視、理論主導の進め方。
3. 文字(音名)や楽譜上の音符と鍵盤位置の関連を視覚的に覚えさせる。
としている。
3については、内的聴取力を育てることを先んじていける現代の教授法の進歩の実態もあるが、個別の音をピアノ無しで唱える絶対音感トレーニング、和音の色彩を聞き分ける和音感教育法など、当時において物凄い画期的な音感教育を「音楽の才能のあるなしに関わらず」一般の子ども達に向けて考案していった。
ピアノの技術を習得しつつ、和音感を養い、徐々に伴奏付けができるようにしていくことも曲を弾きつつ進めるような、教本の編纂もしていて「兵士の行進」をその教材としていることなど、非常に勉強になる。
ピアノ奏法の教授順序については、運指や指の形に最初からこだわるよりも音の習得に集中させ、ある程度弾けるようになってからこの問題を教えるとしていて、その時期をソナチネ程度としているところも、「音楽重視」で、何より子どもたちに〈曲を音楽としてわかった上で〉美しいピアノ曲に多く触れさせたいという心意気を感じる。
これも現代においては、賛否両論あるところだとは思うが。
氏が書いた国産初のオリジナル教材、「子供のピアノⅠ―音の国への話」は山田耕作と共著になっている。
山田耕作といえば、ダルクローズを勉強した人。メソードの内容に非常に共感が持てるのは、そこにも一因あるかも知れない。「子供のピアノⅡ」と共に共通する特徴は、
1. 日本民謡や日本で広く歌われている曲の使用
2. 聴音、拍子感、音感養成などソルフェージュの応用と和音感教育
3. 以前の指導書では使わなかったドレミ固定音名と英語読みの臨時記号の組み合わせ
4. おとぎ話、字の大きさなど子供のための工夫
と、全く現在にもそのまま適用できる。
私も生徒たちのレッスンにおいて、ピアノレッスンとダルクローズメソードの並行により、ソルフェージュ教育にかなりの時間を割いている。
以後も「普通の子供たちが楽しく音楽に触れる」ことに重点を置きながらも、その中から何か光る逸材が育ってくれるといいなあ…と思っている。
写真は、私が大学を卒業するときに、恩師から戴いたレコード「ベートーヴェンソナタ全集 園田高弘演奏」のパンフレット。直筆のサインがあり、恩師に贈呈されたものを卒業記念にともったいなくも頂戴した。
このアルバムは、1983年3月~11月に行われた全曲演奏会の記録。
パンフレットの1ページ目冒頭に、–「音楽歴」幼少より亡父清秀に系統的な早期音感教育を受け…–と記述されている。(パンフレット内には、19ページにわたり、32曲のベートーヴェンピアノソナタの全体像から各曲の精密な構成についてまで、綿密に書かれている。)