脳を鍛えるリトミック!?

トーク少し前のことになるが、「空耳の科学」の著者 柏野牧夫氏と「絶対音感」の著者 最相葉月氏によるトークセッションを聞きに行った。
話は主に聴感覚がいかにイリュージョンに溢れているかという内容。視覚によるイリュージョンさながらの聴覚マジックに釘付け。
ただし、音楽をやっている私たちが日頃よく言う「音を聴く」という類のものではない。
正に人間の耳についての基礎研究分野の話。でも、最相葉月さんという才女が、その研究発表を実にうまく料理をして、さまざまな目的を持って聴きに来ている異分野の聴衆を満足させるものとしての話題提供に変換。
いみじくも小澤征爾さんと村上春樹さんの対談本にあった「ああ、ぼくたち音楽をやる者は、そういう聴き方をしていないんだな」というくだりを思い出しながら聞いていたら、最相さんも同じことを言っていた。

音を聴くという事は、脳の予測機能の働きが大変に作用しているということがよく分かった。
「耳が良い」という事は、たくさんのことが聴こえる、細かい違いが判ることよりも、聴こえたことをどのように処理し瞬時に多くのアウトプット信号に置き換えることが出来るかという能力の事だという事も納得できた。

中でも、ミラーニューロンというものの存在の話は、ダルクローズ・リトミックをやっている私たちにとって「耳より」な話。
人間の場合は、ミラーシステムと呼ばれているらしいが、その脳の連携システムにより、他人が動いている様子を見て、それが自分もやったことのある動きであると、見ると同時にあたかも自分で動いているように脳内でシュミレーションをしているということが研究結果として証明されているらしい。
脳は、モノを見ているときは視覚野だけが活動するとか、音を聞いているときには聴覚野だけが活動するという単純な構造ではなく、広範なところでそれぞれが連絡を取りながら、役割を演じているらしい。

「聞いた音と運動をリンクさせていくリトミックは、脳のトレーニングになる」とはリトミックをやっている私たちにとってはあたりまえに言われていることだが、このミラーシステムの話から、より根拠を帯び確信になる。

「社会性」とは、脳の機能のどこかに社会性を担う中枢があるわけではなく、視覚野・聴覚野・運動野の自然なやり取りの産物といえ、臨機応変にその場に合わせて脳内をネットワーク化して協調して働かせること言えるようだ。

脳科学者の茂木健一郎さんの話にもこの「ミラーニューロン」の働きについての説明があった。

近年注目されている集団的知性(=人と人とが協力したときに出る力のこと)に大きく影響するのが他人の心がわかる社会的感受性で、これは鏡のように働く神経細胞・ミラーニューロンの働きによって生み出されるものとのこと。

またこれを発揮するのは、同じ分野を得意とする人ばかりが集まっても意味がなく、むしろそれぞれに得意な分野が異なる個性豊かな人が集まって、互いの心を感じながら協力することが最善の方法だとも述べておられる。

脳を鍛え、社会性を伸ばし、多くの人と協力しながら集団的知性を発揮していけるように、

年齢にかかわらずもっと多くの分野の方にも「リトミック」を知っていただけたらと思っている。