音楽(音)をイメージ(創造)する―ツィーグラー奏法に添って
音楽を好きになること=音楽により人生を豊かに・・・これが、ピアノを習いたい、習わせたいと考える大きな理由だと思います。
小さい時からお家で音楽に触れ、たくさんの歌をよく知っている子は、やはり導入がスムーズです。でもそれだけでは、練習しなくてはいけない「ピアノ」を好きになるに至るまでにまだ少しハードルがあって、素敵な音楽を聴いて「なんて素敵だろう!」と感じとれるようになることが先ず「ピアノを好きになる」最初の一歩です。
それにはいろんな段階があると思いますが、ピアノを習うならやはり「素敵な音で、音楽的表現の豊かなピアノ演奏」をキャッチして感動する、という体験が必要だと思います。
ピアノ曲を聴き、自分も弾いてみたい!という心が育ち、練習を積み重ねて上達していく・・・そこから色々な知や芸術への扉が開き、好奇心を持って進んでいけるようになりますね。
ツィーグラー奏法の教本の序章に
—学習者は、初歩のうちからタッチに気をつけるのは良くない。タッチに気を取られて、美しい演奏がなおざりにされ、がんらい持っている美しい音とは全く逆のものになってしまうからである。—
と、書かれていますが、これについてツィーグラー奏法の第一人者の藤原由紀乃先生が、「CHOPIN」2014.01号にこのように説明されています。
—相手に何かを伝えたい」という心が、自然と声や顔の表情とジェスチャーを生み出し、「相手の話を聞きたい」という心が、自然と身を乗り出して真剣に聞いている自分に繋がるのです。身体が健全であれば、心の意のままに身体が反応し、“必要な動作をごく自然に”してくれるのです。ツィーグラー奏法では、結果論として“心と身体(脳)が「自然に」連動する”のです。—
つまり、ツィーグラー奏法では「(伝えたい)音楽」を自分の中にイメージできるようになる事が、指の動かし方よりも優先される・・・ということですね。
さて、ウィキペディアには、奏法が違うというときには音色の違いを目的とするのが普通である、とあります。
ツィーグラー奏法の音について、前出の記事の中で藤原先生が次のように述べて下さっています。
—私が4歳の時、ツィーグラー女史の高弟、アンナ・シュタードゥラー先生は、音符の読み方と鍵盤上での音の場所を教えてくださり、“音の響きの見本”を弾いてくださいました。先生の奏でられる音は、どこにも“ぶつからず”堅さや重たさがまったく無く、美しい歌声の様に伸びやかに響きわたり、いつまでも減衰しませんでした。―略―心が音を左右し、心に身体(手・指など)が、ピタッとついてくる不思議に驚き、喜びながら、ツィーグラー奏法の神秘に心躍らせました。—
藤原先生の仰る、「どこにも“ぶつからず”堅さや重たさがまったく無く、美しい歌声の様に伸びやかに響きわたり、いつまでも減衰しない音」とは、静まった水面に水滴が一滴落ち、その波紋がどこまでも広がっていくような、ハンマーの一打による弦の振動が、空気・ピアノに共鳴し増幅していき、不思議なことにまるでクレッシェンドしていくかのような音です。温かく包み込まれるような、それでいて力強い、揺さぶられるような芯のある音。
更に重ねて、ツィーグラー奏法の音に触れていけるようになるための方法をこのように教えて下さっています。
—“いい耳を育てる”ための“いい音を追求する”ためにできることは、“音を一音一音 真心を込めて、響き始めてから最後の最後まで大切に聴く努力”そして、“指・手・手首・腕・肩・身体のすべてに力が入らない努力”なのです。美しい音で奏でられる演奏を聴くことも大切です。“いい音”と“いい耳”を育てるためには、“力みに繋がる、動作としての脱力”は、避けたいものです。–
その域に達するには年月がかかりますが、先生によると「音楽は年齢でなく、魂によるものだから、大人・子どもというのは関係ない」そうで、子どもの時からツィーグラー奏法に触れることが出来るというのは、ラッキーなことだと思います。
どんな時も「音楽的な、歌うような音」を出していくこと。曲の中の複雑な動きを分解し簡易化して練習する時も、ハノンのような規則性のある音のまとまりの練習をするときも、一音を大切に聴く。指で鍵盤を抑える動作は、それ自体 力が入ってしまうので、“指・手・手首・腕・肩・身体のすべてに力が入らない努力”を惜しまない事。そうすることで、自分で「良い音」への確信が持てるようになっていきます。
一音を大切に聴き・弾けるようになると、楽譜に添って音を出していくと、自然に「そこに在る音楽」が浮かび上がってきて、訴えかけてきてくれるように感じられるのもツィーグラー奏法の素晴らしい一面で、醍醐味だとも思います。楽譜の読み方を高次元に学ぶこと(特にリズムや音楽表現の理論)も、即 理解が演奏に結びつく実感が持てると思います。
自然に構えることなく音楽に親しみ、楽しさや素晴らしさを発見していけるのが、ツィーグラー奏法です。